セレンディピティの逃亡劇 [3]








「元気でな。ちゃんと手紙出すんだぞ」

「分かってるわ」

「……」



グレンジャーがハグリットと抱き合った。…見てるこっちとしてはあまりいい気持ちはしないものの、これからは会えなくなるのだから我慢するしかない。そもそも、ハグリットは心配性だと思う。空港についたら絶対に手紙をよこせだの、ご飯はちゃんと食べろだの…それくらい僕達だってもう子供という年じゃないんだから分かる。



「その箒に乗っていくのか?」



グレンジャーが自分の箒に手をかけていたので思わず声をかけた。すると彼女は何を言っているんだという様な表情で僕を見てきた。



「当たり前じゃない。何?違うの?」



当たり前と言えば当たり前だが…。

僕が言いたいのはどうして自分の箒に乗って行くんだという事だ。雰囲気というものもあって、それに別々の箒に乗ってくのも別に構わないが、どっちかというと、一緒に乗りたい訳じゃないけど…いや、そうじゃなくて……………こんな事絶対に口には出せないよ。



「…何でもない…。…ハグリット、何笑ってるんだ」



笑い声が微かに聞こえて隣を見ればハグリットが肩を震わして笑っていた。なんだよ、何が言いたいんだよ。



「いやいや、おめぇさん…本当に……表現が下手だなぁ」

「大きなお世話だ!」



怒鳴りながらバン!と扉を開けると寒い風が小屋の中に入ってきた。

グレンジャーは何を言っているのかよく分からないという様な表情で笑っているハグリットと怒鳴った僕を見ていた。







ハグリットは僕とグレンジャーの計画に深く関わっている。

例えばこのキングスクロス駅行きへのチケットも彼が買ってきてくれたし、この小屋は僕達が計画を立てるのにいつも使っていた。ここなら生徒達も来なければ安心して話せるからだ。たまにポッター達が来て僕だけ慌てて裏口から出た事もあるが…。



それに、ハグリットが何でこの計画に関わったのかと言えばグレンジャーのせいだと思う。彼女は僕達2人だけでは何かと不十分だからハグリットにも協力して貰おうと言ったのだ。最初はふざけるなと思ったが、よくよく話を聞けばなんと、彼女はハグリットに僕と付き合う前からいろいろ相談していたという。僕達の関係などハグリットは前々から知っているし信頼出来る相手だから頼ろうと言って聞かなかったためこんな事になってしまった。僕は彼がこの事に関わったという事ははっきり言って反対だ。もしかしたら校長とかに言いつけるかもしれない。可能性がない事はないからだ。











「気をつけてなー!」



箒に乗って空へと舞い上がる。

下を見ればあの大きい巨体のハグリットがどんどん小さくなっていく。そしてずっと過ごしてきたホグワーツもどんどんと小さくなり、遠くに見えなくなっていった。







「…本当に信頼出来るのか?あいつ」



横に箒に乗って空を飛んでいるグレンジャーに念のため聞いてみると彼女はうんざりとした顔で答えた。



「何言ってるのよ。ハグリットが裏切るわけないじゃない。平気よ」



これ以上聞くとグレンジャーは本気で怒るかもしれない。

そう思ってこれを最後の質問とする事にした…。







しばらく空を飛んでいると駅が見えてきた。

腕時計を見ると時刻は55分。あと3分すれば列車が来る。チケットを前から買っておいて本当によかったと思う。そうでもしなければ、今ごろ慌ててチケットを買い、もしかしたら列車に乗り遅れていたかもしれないからだ。



…そういえばチケットを買ったのはハグリット…だったっけ。

……微妙な心情だ。





「ギリギリだったわね」



箒を降りてホームまで歩いていくとグレンジャーが言った。そういえば、この箒、どうしようなどと思っていたらグレンジャーが自分の箒をホームのゴミ置き場に捨てたのを見てギョッとした。



「おい!何で捨てるんだよ!」

「だっていらないんでしょ?だったらゴミ同然じゃない」

「…でももったいな…」

「何よ。私より箒なの?」

「…違うよ」



ため息をつき、僕も自分の箒をじっと見つめてからゴミ箱に投げ捨てた。2年生の時に父上から貰った箒をまさかこんな形で捨てる事になるとは思いもしなかったけど。







ホームには人が僕達以外には居なかった。

しん、としていて妙な雰囲気だったが汽笛が微かに聞こえてきて列車が来た事を告げた。グレンジャーはチケットを1枚僕に渡した。



「今晩は。こんな夜中にマグルの世界に行くなんて仕事大変だねぇ」



列車のドアーが開き、中から常務車掌が出てきた。僕はチケットを渡しながら何気なく答えた。こんなところでバレるわけにはいかない。



「まったくですよ。夜勤なんてやるものじゃないですね」

「はは、まあそれが仕事というものだからなぁ…じゃあ、お気をつけて」

「はい、どうも」



車掌は軽く笑うと僕達を簡単に中に入れてくれた。

そして彼が去って行ったあとにグレンジャーを見ればポカンとした顔で僕を見ている。



「何だよ。実は学生なんですとでも言えばよかったかい?」

「ち、違うわよ!ただ、よくとっさに嘘が言えるなって思って…」

「ふん、あれくらい当然だろ」



グレンジャーの荷物を手に持って僕は奥へと歩いて行った。後ろから「待ってよ」という声と足音が聞こえてきた。












※絶対に坊はこんな会話しないと思う。